東京で椿が一番みれる場所・伊豆大島

去年の話。東京で一番の椿の名所にいこうと思い、伊豆大島にいった。

初手から人を惑わせにかかってくるが、伊豆半島は静岡でも伊豆諸島は東京の一部。江戸時代から幕府領で江戸の街と文化的な繋りも強く、明治以降はややあって東京府所属に落ち着いたらしい。

この伊豆諸島、火山島で土壌が悪く潮風も当たる過酷な環境で、生える植物が限られる。椿はこの環境でも逞しく育つ木々の一つである。さらに椿は島で防風林としての実用的価値や椿油や椿炭の経済的価値、そしてもちろん観賞用としての価値が有用だったので植樹され、大島が椿に覆われてると言っていいくらいに椿がたくさん生えてる島になった。そんな椿は大島の人々に愛されて、100km²に満たない島内に椿園が三園あるし、島内の空港の名前もかめりあ空港だし(カメリア英語で椿の意)、島内でやるミスコンはミス椿だし、大島町の木はつばきの木だし、町の花もつばきの花。ヤブツバキ 椿尽しといっていいこの島に椿を見にいこうと思い、ちょうど椿まつりをやっている時期の二月上旬に一泊二日の日程で旅行にいってきた。島内にある椿園三園の他、島内の野生の椿を鑑賞するのが目的だ。

椿園三園とは都立大島公園椿園、都立大島高校椿園、椿花ガーデンだ。これらは全て国際優秀つばき園に選ばれている。海外だと例えばフランスなら国全体で二園しか国際優秀つばき園はないのでこの大島の気合の入りようがよく分かる。一回の旅行で三園を見れるのはなんとも贅沢な話だ。

それに加えて野生の椿も楽しみである。我々が普段よく目にするのは公園なんかにある手入れされた椿で、人の背丈かせいぜい手を伸ばした高さ程度のものが多い。ところが椿は本来は10メートルを越すくらいまで成長する木だ。植物はのびのびと育った姿を見るのが一番だと思っている。なので人手の入ってないすくすくと育った椿をみるのがこの旅のもう一つの楽しみだ。肥後紅葉狩り

一日目

伊豆大島へ

東京の区部から伊豆大島へ渡るには調布にいってから25分飛ぶか、竹橋からにフェリーで夜行するか高速ジェット船に2時間弱乗るかになる。自分は小型飛行機が揺れそうで怖かったので8:10発の高速ジェット船を選んだ。2024-02-11 07.40.19 2024-02-11 08.04.40 乗り心地は、走行中は評判通り揺れなかったが、中継地で停泊してるときにめちゃくちゃ揺れてけっこうしんどかった。それと東京湾内と外洋で波の高さが違った。2024-02-11 08.17.14 2024-02-11 10.07.19 次は飛行機を試してみたい。

船でいくとその日の天候によって岡田港か元町港かのどちらかに着く。自分は岡田港だった。2024-02-11 10.17.37 空港はかめりあ空港だが港も椿の絵で歓迎してくれている。

大島一周の旅

下のリンクを見てもらうと分かるように大島は車なら一時間で一周ぐるっと周れるくらいの大きさだが、徒歩で動けるほどは小さくない。何かしらの交通手段が必要だ。

伊豆大島の総合案内(ツアー&観光情報)|四季の旅

当時運転免許を持っていない自分は路線バスを使うか毎回タクシーを呼ぶかレンタルサイクルを使うかだが、自由度をとって自転車を借ることにしていた。ところが岡田港付近のレンタルサイクル屋さんがあるはずの場所にない。困って港の観光案内所できいてみたら廃業していたらしい。おじさんのアドバイスに従ってひとまず町役場などがある元町の方にバスで移動してから電動アシスト自転車を借りた。

これでいざ大島の椿巡りの自転車旅のはじまりである。時刻は十時過ぎくらい。一日目は大島環状線沿いに島をひと巡りしつつ宿から一番遠い大島公園椿園を消化して、時間があれば宿に近い都立大島高校椿園か椿花ガーデンもいく予定だ。因みに観光案内所のおじさんには自転車で一周はやめとけって言われた。ゴツゴツした火山島なので起伏が激しいので自転車で周るのはハードコースだ。特に南西部がきつい

伊豆大島の地形図

Batholith - Topographic data: NASA’s SRTM-1 30m Mesh (ver.3 2014)Rendering software: KASHMIR 3D, パブリック・ドメイン, リンクによる

最初の観光ポイントは椿ではなくジオスポット。地層大切断面。島の西南西あたりにある大きくうねった地層。道路建設のために掘削したら露出したものらしい。DSC_0239 うねりは外力で褶曲した訳ではなくて、起伏のある地形に火山灰などが降り積もってできたものだそう。確かに下より上の方がうねりがゆるやかで積もった感がある。DSC_0237

そのまま少し進むと道端に古めの椿の木があった。道路脇に生えてるので枝が何度も切られて味のある見た目になっている。DSC_0244

さっきから椿の話しかしていないが、実は大島は桜もすごい。我々がよく公園などで目にするソメイヨシノの片親が大島に生えているオオシマザクラとされている(もう片親はエドヒガン)。道中でみかけたこの野生の桜もおそらくオオシマザクラだろう。オオシマザクラは植物園でも見れるが、やはり野生のものをみれた喜びは別格である。DSC_0248

大島は町といえるものがまばらに点在しており、その間はほぼ森である。南端くらいを通ってるときは椿の原生林が広がっていて大変すばらしかった。特に道路脇の椿がせり出してアーチを作ってる所なんかは他では見られない光景だろう。2024-02-11 13.11.31

そのあと島の南南東くらいにある波浮港で昼食の予定だったが満席だったのでそのままスルー。波浮港自体もジオい場所で火口が海に沈んだ地形を利用して港が作られている場所。写真とっときゃよかったな。

波浮港から引き返して大島環状線に戻って、次のポイントは南東あたりにある筆島。海中にぽつんと立った奇岩。道路を走りながらでも見れるが、見晴し台があって写真を撮れるようになっていた。DSC_0252

このあと小雨に降られつつ起伏の激しい道を進んでいく。冬とはいえ急斜面で自転車を漕いでいると上気するので小雨で冷めてありがたかった。道中、山中にさしかかったところでサルに出くわした。すぐに逃げたので写真は撮れなかったが、調べると大島には動物園から逃げ出したタイワンザルが繁殖しているらしい。人の業よ…。

そして島の東側で裏砂漠の入口にきた。DSC_0258 裏砂漠は大島最高峰の三原山の噴火の影響でできた溶岩原で、通称に砂漠がつくことから日本唯一の砂漠と言われたりする。このあたりをバギーで走破するツアーなんかもあるらしい。DSC_0257 この看板の向いにバス亭があったのだが、付近にカマボコ型をしたコンクリートの雨避けみたいなのがあった。何かのトマソン(無用建築)かな?と思ってスルーしてたがよく考えたら三原山が噴火したときに火山弾を避けるためのシェルターだったな。写真はないのでストリートビューを貼っておこう。

だいたいここが半周ににあたるが、時刻は十四時。出発が十時だったのでこのペースだと二園周るどころか日が沈むまでに宿に着けるかも怪しい。急いで次のポイントにいこう。 次はお待ちかねの都立大島公園椿園だ。

大島公園椿園

椿園・椿資料館|植物園・椿園|☆東京都大島支庁ホームページ☆

裏砂漠入口からは20分くらいの距離。ここまで自転車を漕いできた感覚からするとすぐに着いた。

公園の入口に広場があって地元の高校生とかが催しをやっていたようだが、自分が着いたタイミングでちょうど終わっていた。2024-02-11 14.13.05 残念だがそのまま椿園に入る。改札所が見当らないのでちょっとキョロキョロしたが、どうやら無料で入れるようだ。やったぜ、東京都に税金納めててよかった。

入るといきなり椿の品種が様々に立ち並ぶ。明石潟 岩根絞 玉手箱 一口に椿といっても品種によって開花時期が違い、サザンカも含めると十一月から三月くらいまで幅広い。今回は真ん中の二月に訪れたので、体感で六〜七割くらいの品種の花をみれた気がする。

椿園の中心におしゃれな温室があった。海外の椿を展示しているようだ攸県油茶 日本で椿といったときはツバキ科ツバキ属のヤブツバキ(Camellia japonica )を指すが、広く世界に目を向けたときにツバキ属の木々を広義ツバキとして呼ぶこともある。この温室は世界各地の広義ツバキを集めたところのようだ。日本のヤブツバキはツバキ属の中ではかなり北に自生しており、他のツバキ類は中国南部やベトナム、ビルマなどの沖縄より南を中心に自生している。なので日本で鑑賞するにはこういった温室が必要な訳だ。海堂

ところで、椿の育種家たちには悲願がある。黄色い椿を作ることだ。野生の椿は赤、変種で白がいて、育種でその中間のピンクやまだら模様は作れるが、黄色い椿は作れない。青いバラのようなものだ。その幻の黄色い椿が1965年に中国で見つかった。名を金花茶という。この温室に金花茶も展示してある。

金花茶

ふだん飲んでるお茶がとれるチャノキもツバキ属で、中国だとツバキ類というよりチャ類という捉え方をしているようで、名前に茶がつく。学名の Camellia chrysantha は黄花のツバキとかそんな意味。漢字にしろアルファベットにしろ黄色い椿というのがこの花のアイデンティティだ。

念願の黄色いツバキ類がみつかったのでヤブツバキと交配してどうにか黄色いツバキを作り出そうとする試みがなされているが、あまり上手くいってないようだ。そもそも交配するのが難しい上に交配できても黄色にならないらしい。何十年も試みが続けられて、黄色い色素を持ったツバキは一応作り出せたらしい。その一つがこの黄鳳だ黄鳳

黄色…い?おしべの照り返しがあるところは黄色く見えるが、先入観なしに見ると十人中八人が白いと答えると思う。本当に難しいんだなと分かる。まあ、この黄鳳は昔の品種なので今はもうちょっと黄色い椿も生まれている。例えば黄鳳にさらに金花茶をかけあわせた"黄の旋律"という品種なんかは黄色いと言っていい色だ。あんまり黄色くないとは言ったが、自分も交配して黄色くなった椿ははじめてみたので感動した。

海外のツバキ類以外に椿(Camellia japonica )の海外品種も展示されている。ホプキンスピンク タカニニ なんとなく日本との感性の違いが感じられる。椿の海外品種は日本の気候でも育つので温室の外でもみられる。

ところで日本産の品種なのに見たことないのがいると思ったら伊豆大島産だった。香紫 そんなのずるじゃん。

そんな感じで楽しんで椿園には40分ほど滞在して250枚近くの写真を撮ってた。椿以外にもオオシマザクラもいたよDSC_0505

そしてすぐ隣に椿資料館というのがある。椿に関連する文化や科学などを展示している。DSC_0510 DSC_0511 DSC_0512 DSC_0521

そこにアクリル樹脂の台に各品種の花をずらっっと展示しているコーナーがあって、「精巧な造花だなぁ」と思って見てたら業者の人がきてポイポイ花を抜いて新しいのにとりかえていた。アクリル樹脂と思ったら中は水だったし、造花じゃなくて生花だった。まさかこんなに綺麗に咲いた花を生花で用意してると思わなくてたまげた。造花と思ってスルーせずに写真撮っときゃよかった。

大島公園には椿園の他にも動物園があるが、時間がないので今回はいけず。次の機会があったらいきたいな。

島のグルメ

このあと坂を一気に下って到着の岡田港、さらに巡って自転車のスタート地点の元町港まで移動して宿にチェックイン。時間がないと焦っていたがあとは下りだったのもあって17時チェックインの予定より早めに着いた。

晩ご飯は近くのお店で大島名物を色々と堪能した。焼酎とつきだしのエビ頭 べっ甲寿司 べっ甲寿司八貫はこれだけである程度お腹いっぱいになる量だけど、昼を逃したので追加で色々な料理を食べていた明日葉のおひたし くさや くさやは匂いばっかり語られるが、味はおいしいアジの干物の味がした。匂いは臭い。全部は載せないがこれ以外にも鯛カマの塩焼きやらあおさ汁やら好き放題食べていた。

そのあとは宿に帰ってシャワーを浴びて港に夜祭りを見にいく予定だった。2024-02-12 14.46.20 だったが、一日中自転車を漕いでいたのと結構飲んだのでそのまま宿で寝てしまった。無念。自分は体力はそこそこある方だがそれでも疲れてしまったのでやっぱり案内所のおじさんの言うとおり自転車で一周はあんまりお勧めできない

二日目

早めに寝てしまったのもあって朝はすっきり起きられた。宿が一階でカフェもやってるところだったのでそこで朝食にありついた。トースト カウンターに小さく「今日の出帆は岡田港」とポップが出ていた。到着と同じく出帆もその日の天候で決まる。島の路線バスの経路とか島中の色々なものが出帆港で変わるので天気予報みたいに重要な情報だ。自分も自転車を元町港で返してから港にいかないといけないので今日のスケジュールに影響がある。

朝食を食べ終わってチェックアウトしたら自転車やさんにいって電動アシスト自転車のバッテリーを換えてもらって二日目スタート。本日は残りの都立大島高校椿園と椿花ガーデンを目指す。帰りのジェット船は十五時半発だ。

都立大島高校椿園は元町から近くて自転車で三十分もかからない。道中、空港へ入る道に河津桜をみかけた。河津桜 河津桜といえば伊豆半島が有名だが、まあここも伊豆諸島なので普通に見られるのかな?

都立大島高校椿園

DSC_0574 土日を使って旅行してるので大島高校は授業はやってないはずだが門が開いてて椿園近くの駐車場に停められるようになっていた。特に入園料などはとっていないようだ。DSC_0580 朝から高校の敷地に入り込んで写真をパシャパシャ撮ってるとなんだかお巡りさんが怖くなるが、この時期なので誰も気にしてないでしょう。

大島高校の主園は畝ごとに整列して椿が並んでる形。カニ歩きしながら一本一本鑑賞していくことになる。古錦襴 加陵頻 御見香 沖の浪

大島高校の面白いところだと島の椿として伊豆大島産の椿を展示してたところ。はじらい DSC_0835 品種は交配でも作られるけど、その遺伝子プールとなるのは野生の変異だ。椿がたくさん自生するこの大島は椿の品種を作るのにも向いた土地なのかもしれない。

あとは大島公園にもあったけど変わり葉の椿もいる。椿は基本は花を愛でるけど、面白い葉っぱの椿も珍重される。三原雲龍 この三原雲龍も三原山の外輪山で見つかったものらしい。

大島高校は小さいながら密に植えられているので思ったより長居してしまった。五十分ほど滞在して300枚以上の写真を撮っていた。

次は椿花ガーデンだ。

椿花ガーデン

最後の椿園は椿花ガーデン。大島高校から自転車で二十分ちょいの距離。DSC_0892 ここは民間で営業しているので入園料が九百五十円。名前に反して動物もいたりパターゴルフやゴーカートができたりと広めの施設だ。名前でいうと椿と花を並列に扱っているのもすごいね。花は椿か椿以外かで考えるらしい。

そんな名前に違わずやっぱり椿がすごい。玉之浦 DSC_0899 雪月花 ポップコーン

一枚目は長崎でめずらしい椿の花がみつかって玉之浦と名付けられたが、人々に枝を切っていかれ原木が枯死したという逸話がある。

椿花ガーデンで有名なのは落ち椿。DSC_0929 海外のツバキ類のロゼフローラ(Camellia rosiflora)なので日本でこの景色を見れるのはここだけかもしれない。

そういえば椿の花弁の下側がよく黒ずんでるの見るでしょう?あれはメジロがそこを掴んで蜜を吸った痕。この写真だと小輪なので枝にとまってるが、普通のヤブツバキなら花弁を捕む。DSC_0956 鳥の目は赤に強いので虫が活動しない冬に花を咲かせる椿は赤い色をしているそうな。

椿花ガーデンにはウサギもいるDSC_1039 2024-02-12 11.14.36 というか地元の人と話したときは「ウサギさんのおるとこいった?」と言われた。椿よりウサギの方がメインなのかもしれない。

他には展望台があって島や海、伊豆半島などが見渡せる。DSC_1011 DSC_1013 DSC_1014

三枚目の茶色い山は恐らく伊豆半島の大室山だろうう。

椿花ガーデンには三十分ほど滞在していた。大島高校からの連続だったのであんまりじっくりという感じではなかった。

時刻は十一時半。船の出帆まで時間はあるが、三原山に登れるほどの時間はない。そこで名所というほどでもないがちょっと気になっていたスポットに行くことにした

夫婦椿

かめりあ空港の裏手というか海側の路地に夫婦椿という椿の株がある。隣あった二本の椿の木がいつしか繋がり一本の木のようになったものだ。そこまで自転車で二十分ほど。観光案内でもあまり見ないので不安になりながら道を進んでみつけられた。夫婦椿 DSC_1064

ちょこんと置かれた案内板にも椿があしらわれていてかわいい。そして誰かが二輪の落ち椿を置いていた。風雅の心のある人のしわざでしょう。

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ところでこの路地がちょっとすごい。左右にずっと椿の並木が続いている。椿の並木って何?DSC_1086 防風林か生垣か分からないけど人手で植えられたものでしょう。奥まで続いてるようなので自転車をゆっくり進めながら通ってみた。かなり奥の方までこの光景が続いていて、かなり逞しい生え方をしている株もあった。DSC_1089 伊豆大島で一番見たかった光景かもしれない、とずっと感動していた。

帰路

夫婦椿から元町に帰ってきたのがちょうど十二時ごろ。昼はカレーの匂いにつられて入ったお店でべっ甲海鮮丼を食べた。

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そこからお土産を買ったりして若干の時間を潰しつつ臨時バスで岡田港に向かって家路についた。2024-02-12 15.21.51

伊豆大島では椿園三園を巡れたし紹介しなかったけど貝類の博物館や火山博物館なんかにもいったし島のグルメも楽しめたし本当に行けてよかった。心残りは大島動物園と三原山と裏砂漠にいけなかったこと、椿油絞りを体験できなかったこと。また行って心残りを晴らしたいな。

κeen Written by:

エンジニア